大人が楽しめる動物の本

動物大好きな大人の皆さまに贈る、私のお勧めの動物本です! フィクション・ノンフィクション取り混ぜて、ご紹介いたします。

『愛しのオクトパス』

 

 この本の題名には、「海の賢者が誘う意識と生命の神秘の世界」という副題が付いています。そうなのです。海の賢者とはオクトパス、つまりタコのことで、とても高い知能を持つと言われているのをご存じの方も多いと思います。私も、8本の手を自由に使ってビンの蓋を開けたり、ちょっとしたパズルめいた装置をこなしたりする動画を見たことがあります。擬態と言って、色だけでなく形までも何者かに似せて成りすましたりするものもいるようです。私は、生き物はほぼ何でも好きですが、知能が高いといわれる生き物にはより興味があり、最近注目されているタコのことも、もっと知りたいと常々思っていました。その矢先に、図書館の新刊コーナーで紹介されていたので、大喜びで飛びつくように手に取って、一気に読み進めました。この本は、今年の3月に発行されたばかりの新しい本です。今までこのブログで紹介した本はかなり古い物も多く、その中で本書は最新の本であり、掲載されている種々の内容も真新しいため、読んでいても参考になる情報が多く役立ちます。

どんな本か

 著者がボストンのニューイングランド水族館のミズダコに魅せられ、「オクトパス・オブザーバー」としてタコと深くかかわっていく様子が描かれた、ノンフィクションです。アテナ、オクタヴィア、カーリー、カルマという歴代のミズダコたちの、それぞれの性格や人との繋がり、その一生のドラマが、繰り広げられます。水族館という魅力的な空間の中で、飼育員やボランティアスタッフたちが色々試行錯誤しながらもタコを理解し、よりよい飼育をするために奮闘していく様に心打たれます。タコの賢さ、かわいらしさや好奇心旺盛なところにも驚かされます。

おすすめのところ

魅力的なミズダコたち

 何といっても、登場する歴代ミズダコの魅力に胸がいっぱいになります。人間が近づくと、腕を伸ばし吸盤で人間の腕をとらえ、人間と触れ合い、その人間を感じ取ろうとしているのです。人を見分け、信頼する人には甘えたり、遊んでほしがったりする様子が、生き生きと描かれています。哺乳類や鳥類、爬虫類、両生類、魚類という脊椎動物の分類の中には含まれない、軟体動物という部類に属するタコですが、イヌ・ネコと同様に個体それぞれに個性を持ち、穏やかで友好的だったり、やんちゃでいたずら好きであったり様々です。また、雌は、産んだ卵を餌も食べずに何か月も必死で世話をしたりもします。そしてとても賢いがために、何とか水槽からでようと、蓋を開けたり出口を探して脱出してしまい、それが大きな事故に繋がったりもしてしまいます。3、4年ほどという短い一生のミズダコですが、精一杯に生きている姿に感動します。

著者のミズダコへの優しい視線

 著者のサイ・モンゴメリーさんは、アメリカ在住のナチュラリストであり、種々の動物の保護にも貢献している方ですが、彼女のミズダコへの愛情がとても素敵です。彼女は、自分以外の生き物(人間も含めてですが)がどんなふうに感じているかは自分には確かなことはわからないという考えの上で、それでも想像力を働かせ、思考し研究し、相手を少しでも理解したり共感したいという思いを持ち続けています。人間とはかけ離れた形態と生態のミズダコですが、ミズダコの知性や感情を感じ取りたいと踏み込んでいきます。

 我が家にも、クサガメがいますが、一般には感情の乏しいと言われる爬虫類ですが、実際に飼ってみると、そんなことはなく、クサガメ自身にもちゃんと感情や意思があることを思い知らされます。ただそれが、人間のそれと全く同じ種類のものではないのかもしれないし、本当のところはどうなんだろうと、いつも考えさせられています。ですから、彼女の疑問や好奇心、願いなどが、とても共感でき、興味深く引き付けられます。他者の感情を理解することは不可能なのかもしれませんが、それでも繋がりたい、愛情を感じあいたいと思う気持ちが、とてもよく伝わってきます。

水族館のスタッフと生き物たち

 個人で飼うペットと違って、水族館という施設では、飼育にたくさんの人がかかわってきます。この本では、飼育員やボランティアスタッフの奮闘ぶりがとてもよく描かれています。ここの水族館自体が、生き物の幸せを重視するという視点で運営しているので、スタッフも皆、生き物を心から大事に自分の子供のように育てています。登場する人々のそれぞれの人生が垣間見れるエピソードも豊富で、人間味あふれた物語が展開します。水族館という、皆が大好きな空間の、内部の事情や様子もよくわかり、とても面白いです。

 登場する生き物たちも、ミズダコだけでなく、本当に多数です。息つく間もないほど、次から次へと、いろいろな生き物が登場します。水族館という専門的な場所なので、普段耳にしないような珍しい魚の名前も、どんどん出てきます。挿絵のイラストなどがないので、どんな魚なのか見当もつかず、私はタブレットを手元において、魚の名まえを検索し、画像を確認しながら読み進めていきました。名前だけより、姿が確認できると、内容もスムーズに理解できてお勧めです。

書籍情報

『愛しのオクトパス  海の賢者が誘う意識と生命の神秘の世界』
著者    サイ・モンゴメリー
訳者    小林 由香利
発行    2017年3月  亜紀書房

 

 

『ソロモンの指輪 動物行動学入門』


 動物行動学といえば、この本の著者ローレンツ博士を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。動物に興味のある方ならば、カモなどのヒナが孵化して最初に見たものを親と思ってしまう「刷り込み」について聞いたことがあると思います。この理論を打ち立てたのが、ローレンツ博士であり、彼が初めて書いた本がこの『ソロモンの指輪』になります。初出版は1963年、私が生まれたころに発行されたものですが、そんなに古い本なのに、この本以上に興味深い動物行動学の本に、なかなか巡り合えずにいます。ローレンツ博士といえば、水鳥のこの「刷り込み」が有名ですが、この本を読むと、水鳥以外にも、カラス、犬(オオカミやジャッカルなども含む)などにも大変深い研究と洞察を重ね、魚にも及ぶ、ありとあらゆる動物に興味を持っていたことがわかります。

 ソロモンというのは、旧約聖書に登場する王の名で、ソロモンの指輪にはあらゆる動植物の声を聞く力が備わっていたとのこと。著者は、ソロモンの指輪がなくても、知り尽くした動物となら話ができるという思いで、この題名にしたそうです。

どんな本か

 動物大好きな著者が、実際に動物と共に生活する中で得られた研究成果や、様々なエピソードが語られています。この本には、著者が飼っていた実に様々な動物が登場します。犬、ネズミ、サルなどをはじめ、鳥だけでも、ハイイロガンやコクマルガラスのほかに、ハト、猛禽類、オウムや種々の野鳥など、数えきれません。これらすべてと実際に接していた著者には、憧れとともに驚きですが、すばらしさだけでなく、著者自身も色々な動物と暮らした苦労や被害も包み隠さず暴露してくれていています。

 動物行動学ときくと、少し硬いイメージがあるかもしれませんが、これは決して研究論文ではなく、一般の人向けの楽しい読み物です。言い回しなどが多少学問的に感じるかもしれませんが、内容が面白いのでどんどん引き込まれていきます。始めからきっちりと読んでいかなくても、自分の興味のある動物の章から読み始めても良いと思います。

お勧めのところ

コクマルカラス

 私は、前にこのブログでも紹介した『カラスの教科書』で、カラスについて様々な知識を得たため、まず一番でこの第5章「永遠に変わらぬ友」を読み始めました。この章では、日本に多数いるハシブトガラスやハシボソガラスではなく、コクマルガラスが登場します。著者の住む、オーストリア方面では一般的なようです。『カラスの教科書』からは身近なカラスについての様々な知識を得ましたが、こちらの本は、さらに突っ込んだ興味深い内容になっています。それは前作と違い、著者自身がヒナからカラスを育てているためと言えるでしょう。それも、1羽飼育での人間との密接した関係であったり、多数飼育でのカラス同士の関係性であったりと、様々です。いずれにしても、カラスの、他者に対する感情的な部分にまで踏み込んでの観察と考察が、とても面白いです。特に、雄と雌が、恋をし、どうやって相手にアプローチし、番になっていくのかのプロセスは、まるで人間の若者の世界を見ているようなかわいらしさで、魅力的です。こういう繊細な部分は、まさに、生活をともにしている著者でなければ知り得なかったところでしょう。

イヌの2タイプ

 犬種により、犬には様々な性格があるというのは良く知られていることで、イヌを飼育する上での参考になり面白い部分でもありますが、著者はそれを大きく2つに分けているようです。つまり、ジャッカルの血を多く引いている「ジャッカル系」と、オオカミの血が濃い「オオカミ系」です。たまたま群れをなし共同生活しているジャッカルに比べて、排他的で非常に強い結びつきの群れをなすオオカミとの違いが、それぞれの血を濃く引き継ぐイヌの性格に反映されているということです。だれにでも懐くことができ、人間に対する従順性をもつジャッカル系と、一人のボスに忠誠を誓うが従順性とは程遠いオオカミ系、そのどちらにも長所と短所があると著者は言っています。著者はその例として、自身が飼っていたジャーマンシェパード(ジャッカル系)と、夫人が飼っていたチャウチャウ犬(オオカミ系)をあげていて、その比較もとても面白いです。また著者は、この2種の良いところをあわせ持った理想的な犬種の育種をやってみたいと言っていましたが、その後どうなったのか非常に興味があるところです。

同族同士の戦い

 肉食獣と草食獣、そのどちらが同族の仲間に対して、ひとたび争いを起こしたときに社交的なモラルのある態度で対処できるか、わかりますか。たとえば、オオカミやイヌなどは、同族との争いのとき、降伏者が一番自分の弱い部分、たとえば首筋などを強者に差し出すことによって、その場が収まってしまうそうです。鋭い牙や嘴のようなものを持つ動物は、それを制御する力が遺伝的に備わっていて、種の保存を保っていると著者は言っています。

 一方、平和的とも思える草食獣は、逆にこのような抑制を持っておらず、逃げ場のない狭い所で争いが起こると、相手が倒れるまで闘い続けるそうです。一見穏やかな生き物に思える、ハトやウサギ、シカなどを例に挙げています。私も、負けたイヌがお腹を見せることによって、勝った方がそれ以上追わなくなるという話は聞いたことがあるのですが、草食獣にそのような抑制がないことに、驚きました。ここの話は、とても新鮮で、お勧めのところです。

お勧めのペット

 8章「なにを飼ったらいいか!」という章は、こんなにいろいろな動物を飼った経験のある著者のお勧めのペットということで、大変楽しみにしていた部分です。鳥でいえば、ウソ・ホシムクドリ・マヒワが、手がかからずお勧めということでしたが、これらは野鳥で、現在はおそらく飼育できないでしょうが、なにしろ50年以上前に書かれた本ですので、現在のペット事情とは違って当たり前ですよね。著者はまた、ゴールデンハムスターをお勧めしていて、確かに現代でも人気のペットですが、私が思うにハムスターは短命という悲しさがあり、現代でいえば、もう少し寿命の長いテグーとか、チンチラなどが、あてはまるのかなーなどと考えたりしています。この50年で、色々な新しいペットが改良されましたが、もし著者が現在も生きていたら、どの動物をお勧めのペットと呼ぶか、非常に興味がありますね。

書籍情報

『ソロモンの指輪』

著者   コンラート・ローレンツ
訳者   日高 敏隆
発行   1963年12月  早川書房
     1998年3月   ハヤカワ文庫NF (文庫本)
     2006年6月   早川書房  (新装版)

 

 

『ソウルメイト』


 この本を読み終わってからしばらく、涙が止まりませんでした。犬と暮らし、犬に愛されたことのある人ならば、きっと同じような思いを抱かれるのではないでしょうか。読んでいると、いろいろな共感する場面で、昔飼っていた自分の愛犬との日々がフィードバックします。喜んでいる顔、悲しそうな様子、真っすぐに見つめる眼、ポンポコのお腹、被毛に顔をうずめたときの匂いまで、鮮やかに脳裏に蘇ってきて、胸がいっぱいになります。どうして犬は、こんなにも人の心の奥深くまで、入り込んで止まないのでしょうか。

 この本を読むことで、今現在犬を飼っている方には、犬との時間が限りある短いものだということに再度気づかせてくれ、これからの時間をより大切に、すばらしい時を共有できるかもしれません。以前飼っていた方には、私のように、犬に愛された記憶が蘇り、犬への感謝と幸福感で胸がいっぱいになるかもしれません。そして犬を飼ったことがない方、犬が苦手だと思う方にも、ぜひこの本をお勧めしたいと思います。この本に出てくる犬たちも、決してワンパターンではなく、人間と同じように様々なタイプがいますが、ありのままの犬の、愛のすばらしさに、少しでも触れていただけたら幸いです。

どんな本か

 この本は、7つの短編物語からできています。第1話が、チワワ。第2話がボルゾイ。その後、柴、コーギー、シェパード、ジャックラッセルテリア、バーニーズと続き、それぞれの話が、違う犬種を主人公としています。登場する犬種ごとの性質が、話の内容にうまく生かされていて、登場する人間とともに物語が展開していきます。一つ一つは短編であり、テンポの良い文章なので、引き込まれてあっという間に読めてしまい、もっと読みたいという欲求がフツフツと沸いてきます。なんとこの本には続編もあり、『陽だまりの天使たち ソウルメイトⅡ』という本になっています。こちらの続編も。7つの短編集で、それぞれ、トイプードル、フレンチブルドック、ミックス、ラブラドールレトリーバー、バセットハウンド、フラットコーテッドレトリーバー、バーニーズの7種になっています。どんな話になるのかもう楽しみで、早々にこちらも読むつもりです。

おすすめのところ

犬種ごとのおもしろさ

 それぞれの話の、犬種による特徴や性格の違いが、とても面白いです。犬と言っても、本当にさまざまで、もともとは人間が目的別に改良して色々な種類を作り出したため、作出されてから長い年月を経ても、そういう気質が根強く残っています。その犬種がどのような役目のためにできたのか、そのためにどういう気質をもっているのかなど考えると、興味は尽きません。その気質が、ペットとして飼われても、受け継がれ、飼い主との暮らしにおいても発揮されます。時にはそれが、少し厄介な性質のように思えたり、また長所が如何なく発揮されたりして、この話が進んで行きます。各話の題名が、犬種名だなんて、犬好きにはたまりませんね。もしこの中に、ご自分が飼っていたり、馴染みのある犬種がいましたら、真っ先にその話からお読みになっても、全くかまいません。私的には、第2話のボルゾイの話、ボルゾイらしい愛にあふれていて、とても好きです。

群れとしての犬

 犬は、人間の家族に対しても、群れという概念をもっているようで、そのことが、この本に、よく描かれています。群れとか、リーダーという考えで、犬との関係を捉えると、犬のいろいろな行動がとてもよく納得できるのです。この本は、人と犬の出てくる小説ですが、そういう部分は、詳細な動物行動学を学んでいるような面白さがあります。

 犬は、特に同居の人間の子供に対して、自分より目下のものと位置づけてしまうことが多いようです。実際、我が家で飼っていた犬、ミニチュア・シュナウザーですが、我が家にやってきたときにまだ2歳であった娘のことを、10歳になってもまだ自分より目下のものと思っていたのは明らかでした。娘は、自分に対して、威張ってきたりする態度や喧嘩できることも可愛いと言っていましたが、それが小型犬だからまだ何とかなっていたのであって、もし大型犬や力の強い犬だったら、そうはいかなかったことでしょう。犬にきちんと人間が上であることを教えることは、人間のためだけでなく、犬自身の気持ちも安定し、安心して暮らせるのだということが、この本を読んでよくわかりました。犬との付き合い方の参考になる部分もとても多いです。

犬への思い

 作者の、犬が大好きであるという思いや、良い飼い主であろうとする思いが、伝わってきて、どの作品も、読後感がとても良いです。最後の2つの話などは、私は読みながら涙があふれてしまいましたが、それでも、犬を一生懸命思う気持ちが強く伝わってきて、決して悲しいだけの犬の話ではありません。どの話の人物も、犬を大切に思う作者の分身のような人物です。様々な状況下で、犬とのより良い関係を築くために、模索していくのです。それが犬にも伝わり、犬も深い愛情と信頼を返してくれ、イヌとともに過ごした時間は、かけがえのない宝になるのです。お読みいただいた方は、涙しながらもきっと温かい気持ちが沸きあがってくると思います。

書籍情報

『ソウルメイト』

著者   馳 星周 (ハセ セイシュウ)
発行   2013年6月  集英社
     2015年9月  集英社文庫(文庫本)

 

 

 

広告を非表示にする

『北極カラスの物語』

 

 なんと素朴で雄大で、大自然を感じさせる物語なのだろう、というのが私がこの本を読み終えた最初の感想です。このところ北海道も珍しく連日の猛暑が続き、辟易していましたが、この本を読んで、間違いなく体感温度が5℃は下がったように感じています。これは、真夏に読むにはふさわしい、北極の氷の中の物語、氷の冷たさや、冷え切った空気、吹きすさぶ風、氷の下の海、そんなものを生々しく感じさせてくれる、北の生き物たちの素晴らしい記録です。

 実はこの本は、先日このブログの記事に上げた、『カラスの教科書』の著者の松原始さんが、作中の「あの作品のあのカラス」というコーナーで紹介していた本なのです。さっそく図書館で借りて、今まさに読み終えたところです。1991年に日本で初版が発行されているのに、今まで知らずにいたことが不思議であり、残念でもあります。もし、『カラスの教科書』を読まなけば、これからもこの本のことも知らずにいたのかと思うと、一冊の本との出会いが次の本との出会いに繋がっていくということに、感謝したい気持ちです。

どんな本か

 『北極カラスの物語』という題名なので、カラスが主体の話だろうと思って読み始めましたが、むしろ一番の主役と思えるのは、キツネとオオカミの2匹組です。もちろんカラスも随所に出てきますし、長老カラスが語り始めるという形で幕開けますが、どちらかというとカラスは脇役です。そしてそれ以外にも、じつに様々な北の動物たちが登場します。ホッキョクグマもですが、カリブー、ウサギ、そり犬、捕食するものされるもの、海の生き物も、シャチやアザラシ等々、多数参加です。

 しかも、この物語が斬新なのは、その動物たちがそれぞれこの本の中で、持ち場をあたえられて、自分たちの目線で語り始めます。この物語は、50ほどの小章から成り立っていますが、一つ一つの章を、各種の動物たちがそれぞれ交代で主役になり、自分達の言葉で語り始め、それがリレーのバトンのように、次々と渡されて、物語が進んでいく仕組みになっています。私は今まで、オムニバスのようでそれとも違う、このようなリレー形式の物語を読んだことがなく、この新しい魅力に引き込まれ、しかもそのために、とても自然に物語が進んで行くことに驚きました。

 内容は作られた物語というより、むしろ実写的です。動物たちが一人称で語り始め、動物同士で会話するところは、ノンフィクションですが、内容自体は、少しも作り物的な部分がなく、北極の自然と生き物の日常の生活を写し出したドキュメンタリー番組を見ているような感じを受けます。同じノンフィクションでも、前の記事でアップした、『ウォーターシップダウンのうさぎたち』や『冒険者たち』とは、全く違ったジャンル、むしろ『シートン動物記』に近いようにさえ思えます。ただし、読後感は、『シートン動物記』のような生き物の宿命を感じさせるような辛さがなく、とても良い終わり方をしていますので、そういうのが苦手な方も安心してお読みください。

お勧めのところ

異種動物の友情

 一番の魅力は、傷ついた1匹の北極キツネと、仲間を失い傷ついた1匹の北極オオカミが出会い、異種の2匹が協力して生きていくという、動物好きにはたまらないシチュエーションでしょう。童話の中では、よくある話とも言えますが、現実にもこれは必ずしもフィクションとは言えないのではないでしょうか。最近では、インターネットによって色々な情報や動画が紹介されていますが、それによると、異種の動物でも、それが生きていくのに必要ならば、時には協力して狩りをしたり、仲間になったりすることもあるようです。未知なる大自然のなかでは、時には例外的なことも起こりうるということです。そしてこの物語は、これが本物の世界であると感じさせる、とても自然な成り行きになっています。キツネとオオカミという魅力的な生き物の、異種動物の友情や生き様を味わってみてはいかがでしょうか。

多数の動物の視点から

 動物の本に限らず、多くの物語は、書き手とか主人公とかの、一つの視点から語られるものですが、この物語は、たくさんの動物たちがその章ごとの主人公です。カラスであったり、キツネとかオオカミであったり、時には、餌となるウサギやアザラシや鳥などの視点からも語られます。大自然の中の主人公は、決して特定のものではなく、それを構成する一つ一つの生き物であるわけで、生き物ごとにその暮らしや一生があります。それをとても大切にして、小さな生き物の気持ちや生活も彷彿とさせられる描写が、とても魅力的です。それが、この物語を、実写のドキュメンタリー風に感じさせている所以でもあるでしょう。

 作者は長く北極調査に携わり、北極の自然と生き物に関しては、第一人者の作家です。氷の割れ目からのぞく海の水、氷の塊に乗って移動する動物、厳しい寒さの中で生きる動物たちの、厳しいながらも素朴で温かい物語を、ぜひ楽しんでみてください。

書籍情報

『北極カラスの物語』
著者   C・W・ニコル
訳者   森 洋子
発行   1991年12月  講談社(単行本)

     1994年12月  講談社文庫(文庫本)

 

 

『カラスの教科書』

 

 我が家のすぐ向かいにある公園に、1本だけ抜きんでた高い木があり、そこに毎年カラスの巣が作られます。とても高い木なので、巣の中の様子はわかりませんが、おそらく子育てをしているのでしょう。毎年、夏頃になると子供のカラスが現れ、公園一帯が騒がしくなります。我が家のそばの電線や屋根にも、家族連れでやってきて、親にえさをねだったり、声も独特なので、すぐ子供のカラスだとわかります。2階の窓から見ていると、その様子がとても面白くて、思わず見入ってしまいます。今年はまだ新しい子ガラスは見ていませんが、最近、親鳥が公園でさかんに鳴きあっています。昨年育った3羽の小ガラスは今はもうどこかにいなくなってしまいました。親鳥たちはどうしてあんなに騒がしく鳴いているのか。昨年の子供たちは、どこに行ってしまったのでしょう。カラスたちを見ていると、いろんな疑問がわいてきます。

 鳥類の中では断トツに知能が高いと言われているカラスなので、今までも興味深く感じていましたが、実のところ、私はカラスのことがほとんど何もわかっていませんでした。身近にいる存在感のある鳥なので、カラスが好きとか、嫌いとか、人それぞれの思いがあると思いますが、周りの人もあまりカラスのことを理解はしていないようです。そういう、誰に聞いたらいいのかわからない、いろいろなカラスの疑問を一気に解決してくれるのが、まさに、この本であると思います。

どんな本か

 著者は、動物行動学を専攻し、カラスの生態や行動を研究テーマにしている、大学の博物館勤務の松原始先生です。さすが、「教科書」と名乗っているだけあって、すべての方面からカラスについて語られています。カラスという鳥の種類から始まり、カラスの一生の生活について、食べ物・住か・仲間との繋がりなど、知りたかったことが充分に、いやそれより遥かに豊富な内容が網羅されています。私が長年、何となくもやもやと疑問に感じていたカラスについての色々なことが、ぱーっと解決へと導かれました。そして知れば知るほど奥深い、カラスの世界に、ますます興味がわいてきました。教科書とはいえ、学校の教科書のイメージのように、堅苦しいものではなく、本当に読みやすいのが特徴です。著者自身が、体験、研究したことがベースになっているので、体験記のような親しみのある楽しい本です。面白く読んでいるうちに、いつのまにか一端のカラス通になっている、という具合いです。

おすすめのところ

人間っぽいカラス

 この本を読んだ感想として、まず感じたのが、カラスはとても人間的だなというものです。たとえば、仲間同士でコミュニケーションをとり、集団で行動しているイメージがありますが、実はそんなにガチガチの秩序があるわけではないそうです。群れをなす動物でよくあるような、しっかりした序列や役割が決まっているわけではなく、すべてに対して、臨機応変。基本は夫婦や家族単位で生活し、なわばりという家を持つ。あるときは塒を共有して、情報交換などにも勤しみ、集まったり離れたりします。著者の紹介している、カラスの夫婦関係(番関係)や親子関係、仲間との関係の逸話が、まるで人間の世間話を聞いているように感じられて、とても微笑ましいです。人間臭いところも、親しみを感じるとともに、さすが知能の高いカラスならではだなと感心させられます。

ハシブトガラスとハシボソガラス

 私たちの周りに普通にいるカラスにも、実はハシブトガラスと、ハシボソガラスという2種類がいて、その違いについて、各方面から説明されています。私も、その2種類がいることは知っていましたが、見た目にもその違いがよくわからず、ハシブトガラスはちょっと大きめくらいにしか知識がありませんでした。カラスといって一緒くたにしていましたが、こんなにも2種類に色々な違いがあることを知って驚きです。見た目以外にも、住み分けがあり、食性や鳴き方、行動も違い、性格までも違うのではと思われます。これからカラスを見るとまず、どちらの種だろうと、そこから入っていけそうで、カラスの知識がぐんとアップした気がします。カラスを見る目が、専門的になること間違いなしです。体も大きく動きはおおざっぱだが、けっこう神経質なところもあるハシブトカラス、小回りがききとても器用に行動できるハシボソガラス、読んでいくにつれ、自分はどちらのカラス派かなと考えてみたりするのも楽しいですよ。

 

 著者はこの本の続編として、「カラスの補習授業」という本を書いています。この本に書ききれなかったもっと深い部分を補習として突っ込んで書いているようです。この本でも十分な読み応えがあったのに、さらなる補習とはいかなるものか、私も近いうちに補習授業を受けたいと思っています。

書籍情報

『カラスの補習授業』
著者    松原 始
発行    2013年1月  雷鳥社(単行本)
      2016年3月  講談社文庫(文庫本)


「ドリトル先生航海記」

 

 私は小さい頃から生き物が大好きなのですが、たぶんその原点を形作ったともいえる本は、「シートン動物記」と、「ドリトル先生シリーズ」なのではないかと思っています。どちらも、たぶんよっぽど読書嫌いの子供でない限り、一度は読んだことがある有名で魅力的なシリーズ本ですね。ただし、「シートン動物記」のほうは、胸を締め付けられるような、あまりにも悲しい終わり方の話が多かった記憶があり、大人になってから読み返したいとは思えず、今に至ります。「ドリトル先生シリーズ」のほうですが、こちらは、打って変わってとても明るくて、ワクワクする楽しい本であった記憶があります。この度、「ドリトル先生航海記」を再度手にとってみて、何十年という時を超えて、子供の頃の感動に出会えるのか期待して、もう一度読んでみることにしました。

どんな本か

 小学生のころに読んだきりですので、私もすっかり話の内容は忘れていました。記憶にあるのは、動物と会話のできる獣医であるドリトル先生の話というイメージだけであり、どんな話だったろうとわくわくしながら読み進めていきました。

 靴職人の息子のスタビンズが、港町パドルビーで、ドリトル先生と出会い、一緒に船旅に出かけていく様子が、スタビンズの言葉で語られている物語です。バトルビーにあるドリトル先生の家や庭や動物園も、とても素敵で、私自身も、そこを訪れたスタビンズと同じ気持ちになって、引き寄せられていきます。

 船旅は、途中、いろいろな問題に見舞われ、食料不足や遭難にもあい、決して安泰したものではないのですが、悲惨さは微塵もなく、ドリトル先生の魅力と知恵で明るく乗り越えていきます。

お勧めのところ

学者らしい素朴なドリトル先生 

 ドリトル先生の、なんとも学者らしい素朴な魅力が、際立っています。世界的に有名な博物学者という立場なのですが、「人生に余計な荷物は不要だ」の言葉通り、金品にもまったく固執することなく、いつも自由であることを好み、貝の言葉を理解するという仕事に熱心であったりするのです。誰にでも何にでも真摯な態度で接し、未知なるものを探求し発見する喜びに人生をかけているという、正に学者の鏡のような先生なのです。かといって、世間知らずの我関せずというタイプではなく、料理も得意で自立した生活を送り、間違ったことは正していく正義感もあり、なんとも素敵な先生です。

動物と話ができること

 なんといっても、この話の最大の魅力は、ドリトル先生の「動物と話しができる」という、夢のような能力でしょう。動物好きの人なら、だれもが憧れる、動物の本当の気持ちを知りたいという思いに、みごとに答えてくれます。しかしドリトル先生も、すべての動物と始めからすんなり会話ができたわけではなく、一つ一つ習得してきたものなのです。未だうまく話せない種族の生き物もいます。物語の中で、「観察力を磨き、何にでもよく気付くようになるのが、動物の言葉を学ぶコツ」というくだりがあります。声を発する以外の部分、動物の仕草や些細な特徴からも気持ちを読み取り、会話しているのだというところが、この本を単なる子供向けの童話ではない、より深いものにしているような気がしました。

 動物と会話できるということは、動物の本当の気持ちがわかるというだけでなく、動物にこちらの意思も適格に伝えることができ、そのことでドリトル先生一行は、いろいろな危機に直面しても、動物の助けを借りて救われるという、ワクワクする嬉しい展開になっています。

 

 大人になって初めて、この物語を再読してみて、自分の子供の頃の思いや動物好きの原点を、正に思い出したような気分になりました。これは確かに、子供向けのフィクションなのですが、大人が読んでこそ、忘れていた大事なことにはっと気づかされることがあり、心がすっと軽くなるような感じがすることでしょう。子供の頃に読んだ記憶がある人こそ、ぜひ読み返していただけたらと思います。

書籍情報

『ドリトル先生の航海記 』
著者  ヒュー・ロフティング
訳者  井伏 鱒二
発行  岩波書店 2000年
初発行は1922年アメリカ。その後、各国で多数発行される。日本での初発行は1952年。

 

『風の中のマリア』

 

 この物語の主人公マリアとは、いったい何の動物だと思いますか。風の中、というので、鳥かな、いや風を切って走る草原の動物かなにか、と思われるかもしれませんが、これはなんと、スズメバチなのです。「疾風のマリア」と呼ばれる、オオスズメバチ一族の最強の戦士、ワーカー(働き蜂)のマリアです。ハチやアリは、虫の中でも、秩序のある大集団を形成して、とても社会性のある生き物だということは知っていましたが、この本を読んで、その様子がとてもよく理解できました。林や草原などの外の世界で、こんなにも一生懸命な命の営みが繰り広げられていることに、ぐんぐん引き込まれて、まるで壮大なファンタジー小説を読んでいるような面白さで一気に読んでしまいました。

 しかしこれは作られたファンタジーではなく、子供の頃に夢中で読んだファーブル昆虫記以上とも思える詳細な生物学的な事実を網羅した昆虫記とも言えるでしょう。個々のスズメバチに名前がついていたり、人間の言葉で会話するところは、もちろん想像からなるフィクションですが、虫の生態や性質などの詳しい内容には目を見張ります。これ一冊で、スズメバチと、その周辺の虫たちへの理解が完成されるレベルです。それなのに、こんなに面白いストーリーが展開されるというのは、もともと虫の世界は人間に比べて、とてもファンタジー的でドラマチックなものと言えるのでしょうね。

どんな話か

 オオスズメバチの一つの巣(帝国)の、成り立ちから終わりまで、ほぼ1年の流れの中で、そこの1ワーカーであるマリアの、羽化してから1か月間あまりの、一生の営みの記録です。「疾風のマリア」と仲間から呼ばれる、大変優秀な戦士であるマリアは、自分の仕事である狩りと戦いに、短い一生を捧げます。帝国を繁栄させるため、自分達の子孫を残すために、奮闘するマリアの一生を、ぜひ知ってもらいたいと思います。

お勧めのところ

オオスズメバチの生活 

 オオスズメバチの生態が、本当に興味深いです。どの虫も、知らないだけで、面白い生態はあるのでしょうが、特に社会性のある虫は面白いですね。一族の発展のために実に効率よく計算されつくしたような集団生活の様子は、素晴らしいものです。何百、数千という数のハチの集団であっても、それは人間社会のような雑多なものではなく、1匹の女王蜂から生まれた娘たちが集まった一家族なのです。その生存が過酷であればあるほど、家族の結束は強く、短い一生を懸命に生きるハチ達の姿には、心が揺さぶられます。スズメバチというと、人間にとっては、最も避けたい虫であり、ほとんどの人が恐いという思いをもっていると思います。大の生き物好きの私でも、ミツバチは可愛くとも、スズメバチだけは怖いですし好きになれません。でも、この話を読むと、オオスズメバチも決して最強の地位に甘んじた安泰の暮らしをしているわけではなく、本当に過酷な一生を過ごしているのだということがわかります。そして、とても短い一生で、1日1日が貴重な時間です。

マリアの気持ち

 作中でのマリアの心模様に、引き付けられます。これは、事実というより作者の作り上げた部分ですが、このところこそ、作者が表現したかった部分なのではないでしょうか。戦士として生まれ、毎日毎日、帝国のために狩りをする、マリア。メスに生まれても、子どもを残すこともなく、帝国のために一生を終える。最強の戦士と称えられ、それを誇りに思うマリアにも、時々、心の葛藤の芽が現れます。でも、葛藤しながらも、決して迷うことなく、自分の一生を全うするマリアに、私はやはり敬意を表したい気持ちになりました。小さな儚い1匹の虫の生涯ですが、その姿は、人間の生き方とも重ね合わせられる、感慨深いものがあります。

 

 虫の世界の話ですので、苦手な方も多いかもしれません。幼虫や、餌となる虫の描写もありますので、苦手な方はご注意ください。さらに、オオスズメバチという、誰もが嫌う虫が主人公ですので、一概におすすめはできませんが、そういうのが平気な方には、ぜひとも読んでいただきたい一冊です。

書籍情報

「風の中のマリア」
著者  百田尚樹
発行  2009年3月  講談社 
    2011年7月  講談社文庫 (文庫本)