大人が楽しめる動物の本

動物大好きな大人の皆さまに贈る、私のお勧めの動物本です! フィクション・ノンフィクション取り混ぜて、ご紹介いたします。

『通い猫アルフィーの奇跡』

 

 まさに大人のための、心がほっこりするステキなお話です。作者は愛猫家のレイチェル・ウェルズという女性で、小さいときから猫と暮らしてきただけあって猫を観察する目と愛情には、さすがのものがあります。猫が主人公のお話で、猫自身が一人称で自分の気持ちを語りますが、決して童話的ではなく、まさに口がきけないだけの人間の同胞という感じがして、全く違和感がありません。アルフィーという4歳の雄猫の、猫としての性質や、アルフィー個人の性格などが、とても興味深く表現されていて引き込まれます。猫好きにはたまらない1冊だと思います。

どんな話か

 老婦人の元で幸せに暮らしていたアルフィーでしたが、老婦人が病で倒れたことにより、突然家と飼い主を失い、野良猫として生きるはめになります。過酷な野良猫生活を抜け出し、安定した飼いネコの暮らしを取り戻すべく、新しい町にくりだしたアルフィーは、自分の不幸な経験から、一人の飼い主に依存するのではなく、何件もの家に世話してもらう「通い猫」という立場になるべきだと目標を定め、行動に出ます。自分を気に入ってもらい、世話してくれる人を探すうち、その人達が直面している様々な困難を助けたいと思うようになり、アルフィーなりに知恵を働かせ、活躍していきます。アルフィーは、大好きな飼い主たちが幸せであることを強く願い、自分の危険も顧みず、困難に立ち向かっていきます。アルフィーの結んだ縁は、どのような結果をもたらすのか、ぜひお読みいただきたいと思います。

おすすめのところ

猫の思考 

 私は大人になってからはずっと犬を飼ってきた犬派で、犬の持つ飼い主への一途な気持ちや行動が好きで、猫というと何となく気まぐれで、人に固執しないものというイメージを抱いていました。とはいえ、子供の頃は猫も飼っていたので、猫には、少し人とは距離をおいた懐き方とか、自立したような賢さがあるというのも感じていました。犬の考えていることは、大体わかりやすいものですが、その点、猫の本当の気持ちは分かりづらい気がします。でもこの本を読んでいると、そういう猫の気持ちと行動の疑問が、 とても良く納得できます。もちろんそれとて作者の想像とか創造にすぎないわけですが、作者なりの解釈の仕方に、とても共感してしまいます。ストーリーの面白さもありますが、それよりも作者の猫への観察眼の鋭さに、魅了されます。思わず、猫っていいなーと、思わされます。

ペットの健気さ 

 アルフィーを取り巻く人たちの抱えている問題や困難は、けっして奇抜なものではなく日常にありがちなことなのですが、それがとても丁寧に描かれています。そしてそれを助けたいとするアルフィーの思いや行動が、なんとも健気で胸を打たれます。こんなにも、いつも飼い主のことを考えているのか、それは猫に限らず、飼われている動物は大概はそうであるのでしょう。それに対して人間は、時として自分の生活に何か大きなことが起きると、ペットのことなど忘れがちになり、冷たく接してしまうこともあります。そのことで、アルフィーも不安を感じるのですが、そういう扱いをもろともせず、飼い主たちを助けたい、幸せにしたいという一念で、行動を起こしていきます。1匹の猫であるアルフィーのその姿に、とても勇気をもらい、生きていく姿勢に教えられるものがあります。

 まずはアルフィーに会いに、ぜひともこの本のページを開いてみてください。この本には、「アルフィーの初恋」という続編もあるそうです。この作者が、猫の恋をどんなふうに表現してくれるのか、興味津々なので、さっそくそちらの本も探して、読んでみたいと思います。

書籍情報

「通い猫アルフィーの奇跡」
著者  レイチェル・ウェルズ
訳者  中西 和美
発行  ハーパーコリンズ・ ジャパン 2015年

 

『冒険者たち~ガンバと十五ひきの仲間たち』

 

 「ガンバの冒険」としてアニメ化もされていて、あまりにも有名な話なので、きっと誰でも、題名くらいは聞いたことがあると思います。児童文学なので子供のころに読まれている方もたくさんいることでしょう。確かに、小学生から読める、児童文学の傑作なのですが、私はあえて大人にもお勧めしたいと思います。子供の頃に読んでいても、たぶん内容はもうかなりうろ覚え、面白かったという記憶だけで、内容はすっかり忘れている方が多いのではと思います。私もそうでした。わが子のために書籍を購入して、息子も娘も楽しんで読みましたが、今は私のお気に入り本の書棚に並んでいます。大人になって読み返してみて、改めて新鮮な面白さに夢中になってしまいました。ぐいぐいと物語の世界に引き込まれてしまいます。1972年というずいぶん昔に書かれた話で、しかも作者は斎藤惇夫という日本人作家なのにも驚きました。てっきり外国の作品だとばかり思っていましたから。子供の頃読んだことがある方もない方も、動物好きな方、冒険好きな方はぜひじっくりと読んでみてください。どんどん先が読みたくなってページをめくってしまい、じっくりは読めないかもしれませんが。子供の頃のようなドキドキワクワク感を味わえること間違いなしです。

どんな本か

 この本の概要はわかっている方も多いと思います。ドブネズミのガンバが、仲間と共に、ノロイ率いるイタチ軍団と闘う話です。でも、なにせ小さなネズミのことですから、旅中から、色々な命がけの出来事にも遭遇します。ノロイとの戦いは、勇気と知恵を駆使しても、とても苦しい戦いで、読みながら、自分も小さなネズミになり、必死になって一緒に戦っているような気持ちになってしまいます。

先日紹介した『ウオーターシップダウンのうさぎたち』との比較

 ウサギとネズミというどちらも身近な小動物を主人公にして、フィクションの、冒険と戦いの物語であるという点で、とても似通った部分が多いため、比較してみました。

その1 より生物学的とより童話的

 『ウォーターシップダウンのうさぎたち』のほうは、人間に住かを追われ、自分達の生存と繁栄のために新しい住かを得るための必然的な旅であるのに対して、『冒険者たち』のほうは、他のネズミを助けに行くという、より童話的な動機の話になっています。童話的と言う点で、登場しているネズミたちも、とても個性がはっきり描かれていて、より人間的な感じをうけます。その点が子供っぽいとも言えますが、キャラクターの魅力を存分に引き出しているので、会話も生き生きとしていて、一瞬も飽きさせることなく話が進んでいきます。

 それに対して、『ウォーターシップダウンのうさぎたち』のほうは、より泥臭い生物的な描写が多く、野ウサギの生態なども知ることができます。

その2 カモメとオオミズナギドリ

 どちらの作品にも、重要なキャストとして、海鳥が登場します。『ウォーターシップダウンのうさぎたち』には、カモメ、『冒険者たち』にはオオミズナギドリです。このトリたちの応援なくしては、成り立たないような重要な役どころであり、地面を進むウサギやネズミといった小動物にとって、空からの応援は、強力な力となります。大空を自由に滑空するトリたちの存在は、地上の飛べない小動物にとっては、ある意味憧れでもあるのでしょう。私がトリ好きだからなのかはわかりませんが、このかっこいいトリたちの登場は、この物語にさらなる魅力をプラスしてくれます。

その3 共通して流れているもの

 どちらも、ここぞというときに強い敵にもひるまず立ち向かって行く勇気と、ピンチにあってもくじけない気持ち、仲間との絆と言う点において、共通するものを感じます。小動物が野生の中で生きていくことは、それだけで毎日が危険と隣り合わせで、その命もはかないものです。それだからこそ、一瞬一瞬が人生であり精一杯輝いている尊いものとなり、人間社会では忘れがちな何かを教えてくれる気がします。

書籍情報

著作  斎藤 惇夫
発行  岩波書店  1982年
(初発行は、牧書店より、1972年に発行されています。)

 

『凍える牙』

 

 以前から題名だけは知っていて、いつか読んでみたいと思っていましたが、ついにこの週末を利用して、一気に読み終えることができました。20年ほど前に執筆され、直木賞も受賞している小説です。とても魅力的な犬が登場するとのことで楽しみにして、今か今かと期待しながら読み進めましたが、なかなか前半はその犬が出てきません。分厚い本であるのに、犬の登場する部分は、全体からの比率でいうとかなり少なく、ずいぶんじれったい思いをしましたが、読み終えた感想としては、登場する「オオカミ犬 疾風(ハヤテ)」の生々しい魅力が、さわやかに心に残っている感じです。いわゆる純粋な動物本ではありませんが、読者の心にオオカミ犬の魅力をしっかりと残してくれることは間違いありません。

どんな本か

 私はあまりこういう種類の本は読まないのですが、たぶん推理物とか刑事物とかいうジャンルの本だと思います。アラサーの女性刑事、音道貴子が、古い体質の残る警察という組織の中で、これまた女性蔑視の見本みたいな古株のおやじ刑事とコンビを組まされ、難事件を追っていくという話です。この2人の刑事の確執とか駆け引きのようなものが、全体のかなりの部分を占めていて、特に前半はちょっと重苦しい嫌な感じさえしてしまいます。

 いつになったら犬の話になるのかという疑問を持ち始めたころ、正に事件の重要な要となるオオカミ犬が登場します。オオカミの血を濃く持ち、犬とのハイブリッドであるオオカミ犬。一般の犬とは明らかに違う、オオカミ犬の特性とすばらしい能力のために、事件に利用されてしまったのですが、利用されるというより、自分の意思で、家族である加害者のために事件にかかわったのではないかと思えるほどの、強い意志と驚くべき能力を発揮しています。

 この本を読んで、オオカミ犬の魅力にぐいぐい引き付けられた犬好きの私は、いつかは何とかしてオオカミ犬を飼ってみたい、と強く思う反面、こんな犬を飼ってしまったら、その信頼と期待に応えるのが負担になるのではないかと思えるほど、かなりの覚悟が必要だと思えて、かかわるべきではないのかなあと、心は揺れ動いています。

おすすめのところ

 推理小説としての魅力はさておいて、何といってもオオカミ犬、疾風のカッコよさでしょう。犬とは違う、野生の能力を持ち、ペットとして飼い主に従うのではなく、プライドとポリシーを持ち、家族として飼い主にだけ絶大な信頼を寄せるという、崇高な生き物。この本を読むと、オオカミ犬のことが本当によく分かります。口がきけないだけで、高い知能を持ち人のように考え行動しているような様は、犬好きならずとも魅せられることでしょう。

 話しの中で警察内部の刑事たちの陰湿な様子や、被害者たちの泥臭い人間模様も描かれていて、ちょっと嫌な気分にもなったりするので、なおさらオオカミ犬の真っすぐな汚れない魅力が際立ってみえます。疾風にはなんとか幸せになってもらいたかったですが、最後の締めくくりも、疾風らしいものだとも思えます。

 オオカミ犬、ほんとにいいですね~。犬好きなら、きっと読んで損はないと思いますよ。

書籍情報

著者  乃南 アサ
発行  新潮社  1996年
(2000年に新潮文庫から文庫本も出ています。)

 

『ある小さなスズメの記録』

 

 スズメ本が続きます。こちらも、前作『家族になったスズメのチュン』と同じように、ノンフィクションのスズメ飼育の記録です。しかし、前作と違うところは、前作が叙事的なのに対して、こちらは抒情的とでもいいましょうか、芸術家らしいとてもたおやかな文章です。それにこちらは、時代背景が第二次世界大戦真っ只中のイギリスにおいて、12年間ほどの生涯を生きたスズメの、なかなかドラマチックな内容となっています。

どんな話か

 ピアニストである作者が、卵から孵って数時間ほどの、まだ目も開かない衰弱したスズメのヒナを保護することから始まります。夫を亡くし、一人暮らしであった作者が、愛情を一心に注ぎ世話をします。もともと足と翼に障害があるスズメで、野生にかえすことはままならず、作者の元でその後の12年という長い一生を送ります。

お勧めのところ

大いなるクラレンス

 すばらしく多才なスズメです。しかしそれはおそらく、もともと特別なスズメであったのではなく、作者との強い絆や信頼のもとに、培われていった能力と言えます。戦火の中、大変な状況の人々を勇気づけるために、芸をしたり、歌を歌ったり、人々の癒しとなりえてきました。作者も何度か、このスズメが鳥ではないような気がすることがあると、作中で書いていますが、その言葉がすんなり理解できます。一心に愛情を注ぎ1対1の強い関係を築くことによって、1羽の小さなスズメが、こんなにも感情豊かでまるで人間のような生き物になるということが、本当に驚きで、感動します。晩年になり体が弱ってからもなお不屈な精神で生きようとするすばらしさに、心打たれます。ほんの小さいこのスズメ(名前はクラレンス)の、大いなる一生と魅力に、ぜひ触れてみてください。

スズメの飼い方

 作者のスズメ飼育の様子がとても興味深いです。食べ物、寝床、生活環境など、鳥飼いさんにも参考になることがいっぱいあるでしょう。前作の飼い主の獣医師さんもそうでしたが、こちらもまたスズメに牛乳を与えているのには、驚きました。哺乳類ではないので、牛乳は体に合わないのではないかと思いますが、スズメは牛乳が大好きのようですね。この話では、病気もせず12年以上も元気に生きているので、体にも良さそうです。

 スズメが年取って体が不自由になってから、作者はいろいろ工夫してスズメが住みやすくなるよう鳥かごの中を改造します。どうすれば、動かなくなった羽や足でも、快適に暮らせるのか、鳥飼さんにとっては役に立つ情報が満載です。

スズメの癒し

 本当にスズメがかわいいです。とても人間的なスズメで、作者を親とか恋人のように慕っています。作者といっしょにいると落ち着いて幸せそうにしているスズメに、こちらも癒されます。作者は、若い頃のスズメの写真を撮らなかったことを、とても後悔していますが、晩年のスズメの写真は何枚も載っています。赤ちゃんのころから、成長して大人になり、晩年に至るまでの、それぞれの時期のスズメの様子が目に浮かびます。

 前作に比べて、こちらは体に障害があり野生に返すことを諦めているため、飼い主と大変密着した関係を築いていて、飼い主との一体感がなんとも魅力的です。

書籍情報

著者  クレア・キップス
訳者  梨木 香歩
発行  文藝春秋 2010年
(初発行年は1953年、イギリス。その後日本でも何回か出版されている)

 

『家族になったスズメのチュン』

 

 獣医でもあり、動物写真家としても知られている、竹田津実さん著作本です。北海道に住む私にとって竹田津さんと言えば、すぐ「キタキツネ」を連想してしまうので、どうしてスズメの本なのかとちょっと意外な気がしました。でも、この本にも、入院中のキタキツネも登場しますし、道東で獣医をして、家畜やら野生動物やらを診療しながら、こんな楽しいスズメの本も書いてしまったのですね。この本を読んでいると、生き物と共に暮らしている、作者とその奥さんの優しさが伝わってきて、とても暖かい気持ちになりますよ。

どんな本か

 弱ったスズメのヒナ、まだ丸裸の赤ちゃんスズメ「チュン」が獣医である作者のもとに運び込まれ、それを育て、野生に返そうとする実際の記録です。かわいいチュンの写真もふんだんに使われています。ただ、このスズメは、すくすくと成長し無事に野生に帰っていった、というのではなく、一時期、かなり長い期間、野生に帰ることを自ら拒み、人間の家族として一緒に暮らしていたのです。自分を人間と思っているような行動、人間や他の動物たちとの兼ね合いが、面白く生き生きと描かれています。

お勧めのところ

チュンの成長

 小さい一羽のスズメが、色々な感情を持ち賢く行動していることに、改めて感心し、小さくともりっぱな命の営みに感動しました。スズメのチュンは元気になっても野生に帰ろうとせず、長い期間、作者の住む人間の家で、家族となり、自由に飛び回りいろいろな興味深い行動を示してくれます。獣医である作者の解釈とともに、雄スズメの成長過程が、とてもよくわかります。甘えるだけの赤ちゃん時代から、一羽の大人の雄スズメとなっていく姿が、頼もしくもちょっと寂しいような気持ちにもさせられます。どこにでもいるのに、いまいちよくわからなかったスズメのことが、いろいろ理解できて、より身近に感じられます。

人間と生きたいチュン

 作者はペットとしてではなく、あくまでも元気にして野生に返すことを目指しているのに、肝心のスズメのほうは、すっかり家になじんで、外に出ていこうとしません。作者がいろいろと手を尽くして、野生に返そうと奮闘しているさまがとても面白いです。(面白いと言っては失礼ですが。)繁殖期になって巣作りをしても、スズメの雌には全く興味を持たず、作者の奥さんに、求婚している様など、思わず微笑んでしまいます。

自然の中の獣医さん

 北海道の東端の地で獣医をしている、作者の生活も垣間見れて楽しいです。ケガなどで弱って運び込まれてくる野生動物たちのその入院の様子なども、描かれています。窓を開けると、窓辺には様々な種類の鳥や小動物などが行きかい、家の中までも入り込んでしまうような、自然がいっぱいの生活は、動物好きにはたまらないもので、一気に読み終えてしまうこと間違いなしの内容です。文章自体もとても読みやすく軽快ですので、ぜひご一読ください。

書籍情報

著者  竹田津 実
発行  偕成社 2006年

 

 

 

『うちのカメ』

 カメ好きにはたまらない一冊です。うちにも、この本に出てくるのと同じクサガメがいるので、前から読みたいと熱望していましたが、かなり古い本なので、近くの本屋で買うこともできず、札幌市図書館のネット予約サービスを利用して、やっと読むことができました。あまり知られていないマイナーな本のような気がしていましたが、他にも予約している人がいて、予約順は5番目になり、根強い人気があるのだなーと、感心しました。

どんな内容

 虫の研究者である大学教授の作者が、子ガメを手に入れてから、カメを飼育していく数十年にわたる飼育記録になっています。発行年は1995年ですが、その中ですでにカメの年齢は35歳と書かれてあったので、今のようにペット飼育の情報もあまりない中で、いろいろ自分たちで試行錯誤しながら、工夫して飼っていく様子が描かれていて、とても興味深い内容となっています。

お勧めのところ

カメ飼育者には

 クサガメのような水辺に棲む水亀というと、水槽やタライの中に水を張り、石など入れて丘を作って飼うようなイメージがあるかと思いますが、なんと作者は家の中でカメを放し飼いにしています。風呂場に水場を作り、自由に出入りさせて、あとは居間や廊下を自由に歩き、好きな場所で昼寝をし、気ままに過ごしているのです。犬猫のように、自由を与えらえたカメは、自分の意思でお気に入りの場所を見つけ、一日を過ごしています。その様子は、水亀飼育の常識を覆す、驚きに満ち溢れたものです。自由な環境をあたえられると、こんな生活を望むのだというカメの意思を知ることができて、とても興味深い本です。それを知っても、ほとんどの人はこのような自由な環境で飼育できるわけではないでしょうが、水槽飼いだとしても、カメ飼育の参考のために、一読の価値ありです。

 それに、飼い方に違いがあっても、共通するカメあるあるをきっと見つけられ、ホッと笑顔になったり、頷いたりすること間違いなしです。 

動物好きさんには

 白黒の写真ですが、随所にカメの様子が載っており、しかもカメが作者に懐いていて、とてもかわいいです。作者の座っている膝の上に乗って昼寝をしたり、作者といっしょに昼寝をしている様子は、動物好きにはたまらない魅力にあふれています。特に犬猫の話題にちょっと物足りなさを感じている、コアな動物好きさんには、必読の書ですね。爬虫類でもこんなに懐き、コンパニオンアニマルとして毎日を過ごしている様子は、目を見張るものがあります。思わずカメを飼いたくなってしまうかもしれません。

 私も、我が家にクサガメが来る前は、きっとあまり反応のないそっけない生き物だろうと思っていたのに、いざ飼ってみると、その可愛さにすっかり魅了されてしまいました。動作はゆったりですが、心は穏やかで、人のそばにいるのが大好きです。アイコンタクトもちゃんとできて、話しかけるとじっと見つめてきます。おいでと手を差し出すと、自分が乗りたいときには乗ってきて、嫌な時は手でよけようとします。うちの子はまだ3歳ですが、時間をかけて少しずつ気持ちが通じてきて、じわじわと仲良くなっている感があります。いぶし銀の魅力ですね。

 この本のカメはすでに35歳で、まだまだ長生きしそうだと作者は書いていましたので、とても寿命の長い生き物です。長く家族でいられる素敵なペットですが、同時に、かなり長期的な飼育の展望をもって、心して飼い始めることが必要ですね。この本を読んで、カメ飼育に興味が沸いてきても、決して軽い気持ちで飼い始めることはしないように、ご注意くださいね。

書籍情報

「うちのカメ」
著者  石川良輔
発行  八坂書房  1994年

 

 

 

『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』

 

 動物好きさんへ贈る私の一番のお勧め本は、こちら、リチャード・アダムス著の「ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち」です。

 私はこの本を高校生の時に初めて読みました。動物好きな友達に勧められて借してもらい、夢中になって読んだ記憶があります。ずっと長い間、もう一度読み返したいと思っていて、やっと最近入手できたので、じっくり読んでみましたが、30年たって読んでみても、ほんとにこれは最高です。上・下巻に分かれていて、かなりの分量です。しかし、その量を感じさせない面白さがあって、もうあっという間にのめり込んでしまうこと間違いなしです。きっと読み進めながらも、まだまだ終わらないでーと思ってしまいますよ。

 まだ読まれていない方がいましたら、ぜひぜひに!とお勧めします。

どんな本か

 住かを追われた野生のうさぎたちが、安住の地を求めて旅をし、戦っていく冒険物語です。ヘイズルという賢い若ウサギが、たくさんの仲間とともに、活躍します。ウサギというだけあって、舞台となるのは、人間も近くに住んでいる草原や丘や牧場など、とても身近な所です。もともと人間の開発によって住かを追われたのです。

 ウサギの他には、ネズミ・猫や犬、鳥など、小動物が登場して彩りを添えます。でも戦いは主に、異種の動物ではなく、他のウサギコロニーとの間に繰り広げられます。同じウサギでも、様々な状況、様々な考えの集団がいて、とても興味深いです。

 野生の生き物たちが、いつでも真剣に生きている様が鮮明に描かれています。

お勧めのところ

ウサギ同士の激突

 全編通して冒険と闘いの旅はスリル満点で面白いですが、特に後半の「将軍」率いる大きなウサギコロニーとの戦いは圧巻です。知恵と勇気と運に支えられ、小さな命の力が激突します。かわいい小動物というイメージのウサギですが、この本を読むと、そのイメージが覆されます。フィクションの物語ですが、そこには野生のウサギのたくましさや賢さ、魅力があふれていて、決して作り話とは思えない生々しい面白さがあります。 

ウサギの生態

 ウサギでも会話できたりするところは擬人化されていて人間的なのですが、やはり人間とは違う動物的な考え方や生態などもきちんと描かれていて、人間との違いを感じとれるのが、これまた味わい深いです。うさぎへの知識や理解も深まります。

キャラクターの魅力

 たくさん登場するウサギたちのキャラがさらりと個性的に描写されていて、魅力的です。やはり主人公のヘイズルがとても魅力的に感じますが、他にもなにげにお気に入りのキャラが出てくるかもしれませんよ。

異種動物の登場

 異種の動物たちとの交流が面白いです。特に、カモメのキハールは、随所でいい働きをしてくれて、キハールなしではこの話はなりたたないほど頼もしく頼りになる存在。小さな動物にとって空からの応援は強力な武器になるということですね。私的には、キハールが出てくると、うわーっと嬉しくなって、テンション上がります。

 

 あらすじはこれから初めて読まれる方のために、敢えて書きませんが、動物好き冒険好きなら、きっと後悔しない、お勧めの本だと思いますので、楽しくお読みいただけたら幸いです。

書籍情報

「ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち 上・下巻」
著者  リチャード・アダムス
訳者  神宮輝夫
発行  評論社 初版1975年