『ある小さなスズメの記録』
スズメ本が続きます。こちらも、前作『家族になったスズメのチュン』と同じように、ノンフィクションのスズメ飼育の記録です。しかし、前作と違うところは、前作が叙事的なのに対して、こちらは抒情的とでもいいましょうか、芸術家らしいとてもたおやかな文章です。それにこちらは、時代背景が第二次世界大戦真っ只中のイギリスにおいて、12年間ほどの生涯を生きたスズメの、なかなかドラマチックな内容となっています。
どんな話か
ピアニストである作者が、卵から孵って数時間ほどの、まだ目も開かない衰弱したスズメのヒナを保護することから始まります。夫を亡くし、一人暮らしであった作者が、愛情を一心に注ぎ世話をします。もともと足と翼に障害があるスズメで、野生にかえすことはままならず、作者の元でその後の12年という長い一生を送ります。
お勧めのところ
大いなるクラレンス
すばらしく多才なスズメです。しかしそれはおそらく、もともと特別なスズメであったのではなく、作者との強い絆や信頼のもとに、培われていった能力と言えます。戦火の中、大変な状況の人々を勇気づけるために、芸をしたり、歌を歌ったり、人々の癒しとなりえてきました。作者も何度か、このスズメが鳥ではないような気がすることがあると、作中で書いていますが、その言葉がすんなり理解できます。一心に愛情を注ぎ1対1の強い関係を築くことによって、1羽の小さなスズメが、こんなにも感情豊かでまるで人間のような生き物になるということが、本当に驚きで、感動します。晩年になり体が弱ってからもなお不屈な精神で生きようとするすばらしさに、心打たれます。ほんの小さいこのスズメ(名前はクラレンス)の、大いなる一生と魅力に、ぜひ触れてみてください。
スズメの飼い方
作者のスズメ飼育の様子がとても興味深いです。食べ物、寝床、生活環境など、鳥飼いさんにも参考になることがいっぱいあるでしょう。前作の飼い主の獣医師さんもそうでしたが、こちらもまたスズメに牛乳を与えているのには、驚きました。哺乳類ではないので、牛乳は体に合わないのではないかと思いますが、スズメは牛乳が大好きのようですね。この話では、病気もせず12年以上も元気に生きているので、体にも良さそうです。
スズメが年取って体が不自由になってから、作者はいろいろ工夫してスズメが住みやすくなるよう鳥かごの中を改造します。どうすれば、動かなくなった羽や足でも、快適に暮らせるのか、鳥飼さんにとっては役に立つ情報が満載です。
スズメの癒し
本当にスズメがかわいいです。とても人間的なスズメで、作者を親とか恋人のように慕っています。作者といっしょにいると落ち着いて幸せそうにしているスズメに、こちらも癒されます。作者は、若い頃のスズメの写真を撮らなかったことを、とても後悔していますが、晩年のスズメの写真は何枚も載っています。赤ちゃんのころから、成長して大人になり、晩年に至るまでの、それぞれの時期のスズメの様子が目に浮かびます。
前作に比べて、こちらは体に障害があり野生に返すことを諦めているため、飼い主と大変密着した関係を築いていて、飼い主との一体感がなんとも魅力的です。
書籍情報
著者 クレア・キップス
訳者 梨木 香歩
発行 文藝春秋 2010年
(初発行年は1953年、イギリス。その後日本でも何回か出版されている)