大人が楽しめる動物の本

動物大好きな大人の皆さまに贈る、私のお勧めの動物本です! フィクション・ノンフィクション取り混ぜて、ご紹介いたします。

『凍える牙』

 

 以前から題名だけは知っていて、いつか読んでみたいと思っていましたが、ついにこの週末を利用して、一気に読み終えることができました。20年ほど前に執筆され、直木賞も受賞している小説です。とても魅力的な犬が登場するとのことで楽しみにして、今か今かと期待しながら読み進めましたが、なかなか前半はその犬が出てきません。分厚い本であるのに、犬の登場する部分は、全体からの比率でいうとかなり少なく、ずいぶんじれったい思いをしましたが、読み終えた感想としては、登場する「オオカミ犬 疾風(ハヤテ)」の生々しい魅力が、さわやかに心に残っている感じです。いわゆる純粋な動物本ではありませんが、読者の心にオオカミ犬の魅力をしっかりと残してくれることは間違いありません。

どんな本か

 私はあまりこういう種類の本は読まないのですが、たぶん推理物とか刑事物とかいうジャンルの本だと思います。アラサーの女性刑事、音道貴子が、古い体質の残る警察という組織の中で、これまた女性蔑視の見本みたいな古株のおやじ刑事とコンビを組まされ、難事件を追っていくという話です。この2人の刑事の確執とか駆け引きのようなものが、全体のかなりの部分を占めていて、特に前半はちょっと重苦しい嫌な感じさえしてしまいます。

 いつになったら犬の話になるのかという疑問を持ち始めたころ、正に事件の重要な要となるオオカミ犬が登場します。オオカミの血を濃く持ち、犬とのハイブリッドであるオオカミ犬。一般の犬とは明らかに違う、オオカミ犬の特性とすばらしい能力のために、事件に利用されてしまったのですが、利用されるというより、自分の意思で、家族である加害者のために事件にかかわったのではないかと思えるほどの、強い意志と驚くべき能力を発揮しています。

 この本を読んで、オオカミ犬の魅力にぐいぐい引き付けられた犬好きの私は、いつかは何とかしてオオカミ犬を飼ってみたい、と強く思う反面、こんな犬を飼ってしまったら、その信頼と期待に応えるのが負担になるのではないかと思えるほど、かなりの覚悟が必要だと思えて、かかわるべきではないのかなあと、心は揺れ動いています。

おすすめのところ

 推理小説としての魅力はさておいて、何といってもオオカミ犬、疾風のカッコよさでしょう。犬とは違う、野生の能力を持ち、ペットとして飼い主に従うのではなく、プライドとポリシーを持ち、家族として飼い主にだけ絶大な信頼を寄せるという、崇高な生き物。この本を読むと、オオカミ犬のことが本当によく分かります。口がきけないだけで、高い知能を持ち人のように考え行動しているような様は、犬好きならずとも魅せられることでしょう。

 話しの中で警察内部の刑事たちの陰湿な様子や、被害者たちの泥臭い人間模様も描かれていて、ちょっと嫌な気分にもなったりするので、なおさらオオカミ犬の真っすぐな汚れない魅力が際立ってみえます。疾風にはなんとか幸せになってもらいたかったですが、最後の締めくくりも、疾風らしいものだとも思えます。

 オオカミ犬、ほんとにいいですね~。犬好きなら、きっと読んで損はないと思いますよ。

書籍情報

著者  乃南 アサ
発行  新潮社  1996年
(2000年に新潮文庫から文庫本も出ています。)