大人が楽しめる動物の本

動物大好きな大人の皆さまに贈る、私のお勧めの動物本です! フィクション・ノンフィクション取り混ぜて、ご紹介いたします。

『冒険者たち~ガンバと十五ひきの仲間たち』

 

 「ガンバの冒険」としてアニメ化もされていて、あまりにも有名な話なので、きっと誰でも、題名くらいは聞いたことがあると思います。児童文学なので子供のころに読まれている方もたくさんいることでしょう。確かに、小学生から読める、児童文学の傑作なのですが、私はあえて大人にもお勧めしたいと思います。子供の頃に読んでいても、たぶん内容はもうかなりうろ覚え、面白かったという記憶だけで、内容はすっかり忘れている方が多いのではと思います。私もそうでした。わが子のために書籍を購入して、息子も娘も楽しんで読みましたが、今は私のお気に入り本の書棚に並んでいます。大人になって読み返してみて、改めて新鮮な面白さに夢中になってしまいました。ぐいぐいと物語の世界に引き込まれてしまいます。1972年というずいぶん昔に書かれた話で、しかも作者は斎藤惇夫という日本人作家なのにも驚きました。てっきり外国の作品だとばかり思っていましたから。子供の頃読んだことがある方もない方も、動物好きな方、冒険好きな方はぜひじっくりと読んでみてください。どんどん先が読みたくなってページをめくってしまい、じっくりは読めないかもしれませんが。子供の頃のようなドキドキワクワク感を味わえること間違いなしです。

どんな本か

 この本の概要はわかっている方も多いと思います。ドブネズミのガンバが、仲間と共に、ノロイ率いるイタチ軍団と闘う話です。でも、なにせ小さなネズミのことですから、旅中から、色々な命がけの出来事にも遭遇します。ノロイとの戦いは、勇気と知恵を駆使しても、とても苦しい戦いで、読みながら、自分も小さなネズミになり、必死になって一緒に戦っているような気持ちになってしまいます。

先日紹介した『ウオーターシップダウンのうさぎたち』との比較

 ウサギとネズミというどちらも身近な小動物を主人公にして、フィクションの、冒険と戦いの物語であるという点で、とても似通った部分が多いため、比較してみました。

その1 より生物学的とより童話的

 『ウォーターシップダウンのうさぎたち』のほうは、人間に住かを追われ、自分達の生存と繁栄のために新しい住かを得るための必然的な旅であるのに対して、『冒険者たち』のほうは、他のネズミを助けに行くという、より童話的な動機の話になっています。童話的と言う点で、登場しているネズミたちも、とても個性がはっきり描かれていて、より人間的な感じをうけます。その点が子供っぽいとも言えますが、キャラクターの魅力を存分に引き出しているので、会話も生き生きとしていて、一瞬も飽きさせることなく話が進んでいきます。

 それに対して、『ウォーターシップダウンのうさぎたち』のほうは、より泥臭い生物的な描写が多く、野ウサギの生態なども知ることができます。

その2 カモメとオオミズナギドリ

 どちらの作品にも、重要なキャストとして、海鳥が登場します。『ウォーターシップダウンのうさぎたち』には、カモメ、『冒険者たち』にはオオミズナギドリです。このトリたちの応援なくしては、成り立たないような重要な役どころであり、地面を進むウサギやネズミといった小動物にとって、空からの応援は、強力な力となります。大空を自由に滑空するトリたちの存在は、地上の飛べない小動物にとっては、ある意味憧れでもあるのでしょう。私がトリ好きだからなのかはわかりませんが、このかっこいいトリたちの登場は、この物語にさらなる魅力をプラスしてくれます。

その3 共通して流れているもの

 どちらも、ここぞというときに強い敵にもひるまず立ち向かって行く勇気と、ピンチにあってもくじけない気持ち、仲間との絆と言う点において、共通するものを感じます。小動物が野生の中で生きていくことは、それだけで毎日が危険と隣り合わせで、その命もはかないものです。それだからこそ、一瞬一瞬が人生であり精一杯輝いている尊いものとなり、人間社会では忘れがちな何かを教えてくれる気がします。

書籍情報

著作  斎藤 惇夫
発行  岩波書店  1982年
(初発行は、牧書店より、1972年に発行されています。)