大人が楽しめる動物の本

動物大好きな大人の皆さまに贈る、私のお勧めの動物本です! フィクション・ノンフィクション取り混ぜて、ご紹介いたします。

『カラスの教科書』

 

 我が家のすぐ向かいにある公園に、1本だけ抜きんでた高い木があり、そこに毎年カラスの巣が作られます。とても高い木なので、巣の中の様子はわかりませんが、おそらく子育てをしているのでしょう。毎年、夏頃になると子供のカラスが現れ、公園一帯が騒がしくなります。我が家のそばの電線や屋根にも、家族連れでやってきて、親にえさをねだったり、声も独特なので、すぐ子供のカラスだとわかります。2階の窓から見ていると、その様子がとても面白くて、思わず見入ってしまいます。今年はまだ新しい子ガラスは見ていませんが、最近、親鳥が公園でさかんに鳴きあっています。昨年育った3羽の小ガラスは今はもうどこかにいなくなってしまいました。親鳥たちはどうしてあんなに騒がしく鳴いているのか。昨年の子供たちは、どこに行ってしまったのでしょう。カラスたちを見ていると、いろんな疑問がわいてきます。

 鳥類の中では断トツに知能が高いと言われているカラスなので、今までも興味深く感じていましたが、実のところ、私はカラスのことがほとんど何もわかっていませんでした。身近にいる存在感のある鳥なので、カラスが好きとか、嫌いとか、人それぞれの思いがあると思いますが、周りの人もあまりカラスのことを理解はしていないようです。そういう、誰に聞いたらいいのかわからない、いろいろなカラスの疑問を一気に解決してくれるのが、まさに、この本であると思います。

どんな本か

 著者は、動物行動学を専攻し、カラスの生態や行動を研究テーマにしている、大学の博物館勤務の松原始先生です。さすが、「教科書」と名乗っているだけあって、すべての方面からカラスについて語られています。カラスという鳥の種類から始まり、カラスの一生の生活について、食べ物・住か・仲間との繋がりなど、知りたかったことが充分に、いやそれより遥かに豊富な内容が網羅されています。私が長年、何となくもやもやと疑問に感じていたカラスについての色々なことが、ぱーっと解決へと導かれました。そして知れば知るほど奥深い、カラスの世界に、ますます興味がわいてきました。教科書とはいえ、学校の教科書のイメージのように、堅苦しいものではなく、本当に読みやすいのが特徴です。著者自身が、体験、研究したことがベースになっているので、体験記のような親しみのある楽しい本です。面白く読んでいるうちに、いつのまにか一端のカラス通になっている、という具合いです。

おすすめのところ

人間っぽいカラス

 この本を読んだ感想として、まず感じたのが、カラスはとても人間的だなというものです。たとえば、仲間同士でコミュニケーションをとり、集団で行動しているイメージがありますが、実はそんなにガチガチの秩序があるわけではないそうです。群れをなす動物でよくあるような、しっかりした序列や役割が決まっているわけではなく、すべてに対して、臨機応変。基本は夫婦や家族単位で生活し、なわばりという家を持つ。あるときは塒を共有して、情報交換などにも勤しみ、集まったり離れたりします。著者の紹介している、カラスの夫婦関係(番関係)や親子関係、仲間との関係の逸話が、まるで人間の世間話を聞いているように感じられて、とても微笑ましいです。人間臭いところも、親しみを感じるとともに、さすが知能の高いカラスならではだなと感心させられます。

ハシブトガラスとハシボソガラス

 私たちの周りに普通にいるカラスにも、実はハシブトガラスと、ハシボソガラスという2種類がいて、その違いについて、各方面から説明されています。私も、その2種類がいることは知っていましたが、見た目にもその違いがよくわからず、ハシブトガラスはちょっと大きめくらいにしか知識がありませんでした。カラスといって一緒くたにしていましたが、こんなにも2種類に色々な違いがあることを知って驚きです。見た目以外にも、住み分けがあり、食性や鳴き方、行動も違い、性格までも違うのではと思われます。これからカラスを見るとまず、どちらの種だろうと、そこから入っていけそうで、カラスの知識がぐんとアップした気がします。カラスを見る目が、専門的になること間違いなしです。体も大きく動きはおおざっぱだが、けっこう神経質なところもあるハシブトカラス、小回りがききとても器用に行動できるハシボソガラス、読んでいくにつれ、自分はどちらのカラス派かなと考えてみたりするのも楽しいですよ。

 

 著者はこの本の続編として、「カラスの補習授業」という本を書いています。この本に書ききれなかったもっと深い部分を補習として突っ込んで書いているようです。この本でも十分な読み応えがあったのに、さらなる補習とはいかなるものか、私も近いうちに補習授業を受けたいと思っています。

書籍情報

『カラスの補習授業』
著者    松原 始
発行    2013年1月  雷鳥社(単行本)
      2016年3月  講談社文庫(文庫本)