大人が楽しめる動物の本

動物大好きな大人の皆さまに贈る、私のお勧めの動物本です! フィクション・ノンフィクション取り混ぜて、ご紹介いたします。

『ソウルメイト』


 この本を読み終わってからしばらく、涙が止まりませんでした。犬と暮らし、犬に愛されたことのある人ならば、きっと同じような思いを抱かれるのではないでしょうか。読んでいると、いろいろな共感する場面で、昔飼っていた自分の愛犬との日々がフィードバックします。喜んでいる顔、悲しそうな様子、真っすぐに見つめる眼、ポンポコのお腹、被毛に顔をうずめたときの匂いまで、鮮やかに脳裏に蘇ってきて、胸がいっぱいになります。どうして犬は、こんなにも人の心の奥深くまで、入り込んで止まないのでしょうか。

 この本を読むことで、今現在犬を飼っている方には、犬との時間が限りある短いものだということに再度気づかせてくれ、これからの時間をより大切に、すばらしい時を共有できるかもしれません。以前飼っていた方には、私のように、犬に愛された記憶が蘇り、犬への感謝と幸福感で胸がいっぱいになるかもしれません。そして犬を飼ったことがない方、犬が苦手だと思う方にも、ぜひこの本をお勧めしたいと思います。この本に出てくる犬たちも、決してワンパターンではなく、人間と同じように様々なタイプがいますが、ありのままの犬の、愛のすばらしさに、少しでも触れていただけたら幸いです。

どんな本か

 この本は、7つの短編物語からできています。第1話が、チワワ。第2話がボルゾイ。その後、柴、コーギー、シェパード、ジャックラッセルテリア、バーニーズと続き、それぞれの話が、違う犬種を主人公としています。登場する犬種ごとの性質が、話の内容にうまく生かされていて、登場する人間とともに物語が展開していきます。一つ一つは短編であり、テンポの良い文章なので、引き込まれてあっという間に読めてしまい、もっと読みたいという欲求がフツフツと沸いてきます。なんとこの本には続編もあり、『陽だまりの天使たち ソウルメイトⅡ』という本になっています。こちらの続編も。7つの短編集で、それぞれ、トイプードル、フレンチブルドック、ミックス、ラブラドールレトリーバー、バセットハウンド、フラットコーテッドレトリーバー、バーニーズの7種になっています。どんな話になるのかもう楽しみで、早々にこちらも読むつもりです。

おすすめのところ

犬種ごとのおもしろさ

 それぞれの話の、犬種による特徴や性格の違いが、とても面白いです。犬と言っても、本当にさまざまで、もともとは人間が目的別に改良して色々な種類を作り出したため、作出されてから長い年月を経ても、そういう気質が根強く残っています。その犬種がどのような役目のためにできたのか、そのためにどういう気質をもっているのかなど考えると、興味は尽きません。その気質が、ペットとして飼われても、受け継がれ、飼い主との暮らしにおいても発揮されます。時にはそれが、少し厄介な性質のように思えたり、また長所が如何なく発揮されたりして、この話が進んで行きます。各話の題名が、犬種名だなんて、犬好きにはたまりませんね。もしこの中に、ご自分が飼っていたり、馴染みのある犬種がいましたら、真っ先にその話からお読みになっても、全くかまいません。私的には、第2話のボルゾイの話、ボルゾイらしい愛にあふれていて、とても好きです。

群れとしての犬

 犬は、人間の家族に対しても、群れという概念をもっているようで、そのことが、この本に、よく描かれています。群れとか、リーダーという考えで、犬との関係を捉えると、犬のいろいろな行動がとてもよく納得できるのです。この本は、人と犬の出てくる小説ですが、そういう部分は、詳細な動物行動学を学んでいるような面白さがあります。

 犬は、特に同居の人間の子供に対して、自分より目下のものと位置づけてしまうことが多いようです。実際、我が家で飼っていた犬、ミニチュア・シュナウザーですが、我が家にやってきたときにまだ2歳であった娘のことを、10歳になってもまだ自分より目下のものと思っていたのは明らかでした。娘は、自分に対して、威張ってきたりする態度や喧嘩できることも可愛いと言っていましたが、それが小型犬だからまだ何とかなっていたのであって、もし大型犬や力の強い犬だったら、そうはいかなかったことでしょう。犬にきちんと人間が上であることを教えることは、人間のためだけでなく、犬自身の気持ちも安定し、安心して暮らせるのだということが、この本を読んでよくわかりました。犬との付き合い方の参考になる部分もとても多いです。

犬への思い

 作者の、犬が大好きであるという思いや、良い飼い主であろうとする思いが、伝わってきて、どの作品も、読後感がとても良いです。最後の2つの話などは、私は読みながら涙があふれてしまいましたが、それでも、犬を一生懸命思う気持ちが強く伝わってきて、決して悲しいだけの犬の話ではありません。どの話の人物も、犬を大切に思う作者の分身のような人物です。様々な状況下で、犬とのより良い関係を築くために、模索していくのです。それが犬にも伝わり、犬も深い愛情と信頼を返してくれ、イヌとともに過ごした時間は、かけがえのない宝になるのです。お読みいただいた方は、涙しながらもきっと温かい気持ちが沸きあがってくると思います。

書籍情報

『ソウルメイト』

著者   馳 星周 (ハセ セイシュウ)
発行   2013年6月  集英社
     2015年9月  集英社文庫(文庫本)