大人が楽しめる動物の本

動物大好きな大人の皆さまに贈る、私のお勧めの動物本です! フィクション・ノンフィクション取り混ぜて、ご紹介いたします。

『愛しのオクトパス』

 

 この本の題名には、「海の賢者が誘う意識と生命の神秘の世界」という副題が付いています。そうなのです。海の賢者とはオクトパス、つまりタコのことで、とても高い知能を持つと言われているのをご存じの方も多いと思います。私も、8本の手を自由に使ってビンの蓋を開けたり、ちょっとしたパズルめいた装置をこなしたりする動画を見たことがあります。擬態と言って、色だけでなく形までも何者かに似せて成りすましたりするものもいるようです。私は、生き物はほぼ何でも好きですが、知能が高いといわれる生き物にはより興味があり、最近注目されているタコのことも、もっと知りたいと常々思っていました。その矢先に、図書館の新刊コーナーで紹介されていたので、大喜びで飛びつくように手に取って、一気に読み進めました。この本は、今年の3月に発行されたばかりの新しい本です。今までこのブログで紹介した本はかなり古い物も多く、その中で本書は最新の本であり、掲載されている種々の内容も真新しいため、読んでいても参考になる情報が多く役立ちます。

どんな本か

 著者がボストンのニューイングランド水族館のミズダコに魅せられ、「オクトパス・オブザーバー」としてタコと深くかかわっていく様子が描かれた、ノンフィクションです。アテナ、オクタヴィア、カーリー、カルマという歴代のミズダコたちの、それぞれの性格や人との繋がり、その一生のドラマが、繰り広げられます。水族館という魅力的な空間の中で、飼育員やボランティアスタッフたちが色々試行錯誤しながらもタコを理解し、よりよい飼育をするために奮闘していく様に心打たれます。タコの賢さ、かわいらしさや好奇心旺盛なところにも驚かされます。

おすすめのところ

魅力的なミズダコたち

 何といっても、登場する歴代ミズダコの魅力に胸がいっぱいになります。人間が近づくと、腕を伸ばし吸盤で人間の腕をとらえ、人間と触れ合い、その人間を感じ取ろうとしているのです。人を見分け、信頼する人には甘えたり、遊んでほしがったりする様子が、生き生きと描かれています。哺乳類や鳥類、爬虫類、両生類、魚類という脊椎動物の分類の中には含まれない、軟体動物という部類に属するタコですが、イヌ・ネコと同様に個体それぞれに個性を持ち、穏やかで友好的だったり、やんちゃでいたずら好きであったり様々です。また、雌は、産んだ卵を餌も食べずに何か月も必死で世話をしたりもします。そしてとても賢いがために、何とか水槽からでようと、蓋を開けたり出口を探して脱出してしまい、それが大きな事故に繋がったりもしてしまいます。3、4年ほどという短い一生のミズダコですが、精一杯に生きている姿に感動します。

著者のミズダコへの優しい視線

 著者のサイ・モンゴメリーさんは、アメリカ在住のナチュラリストであり、種々の動物の保護にも貢献している方ですが、彼女のミズダコへの愛情がとても素敵です。彼女は、自分以外の生き物(人間も含めてですが)がどんなふうに感じているかは自分には確かなことはわからないという考えの上で、それでも想像力を働かせ、思考し研究し、相手を少しでも理解したり共感したいという思いを持ち続けています。人間とはかけ離れた形態と生態のミズダコですが、ミズダコの知性や感情を感じ取りたいと踏み込んでいきます。

 我が家にも、クサガメがいますが、一般には感情の乏しいと言われる爬虫類ですが、実際に飼ってみると、そんなことはなく、クサガメ自身にもちゃんと感情や意思があることを思い知らされます。ただそれが、人間のそれと全く同じ種類のものではないのかもしれないし、本当のところはどうなんだろうと、いつも考えさせられています。ですから、彼女の疑問や好奇心、願いなどが、とても共感でき、興味深く引き付けられます。他者の感情を理解することは不可能なのかもしれませんが、それでも繋がりたい、愛情を感じあいたいと思う気持ちが、とてもよく伝わってきます。

水族館のスタッフと生き物たち

 個人で飼うペットと違って、水族館という施設では、飼育にたくさんの人がかかわってきます。この本では、飼育員やボランティアスタッフの奮闘ぶりがとてもよく描かれています。ここの水族館自体が、生き物の幸せを重視するという視点で運営しているので、スタッフも皆、生き物を心から大事に自分の子供のように育てています。登場する人々のそれぞれの人生が垣間見れるエピソードも豊富で、人間味あふれた物語が展開します。水族館という、皆が大好きな空間の、内部の事情や様子もよくわかり、とても面白いです。

 登場する生き物たちも、ミズダコだけでなく、本当に多数です。息つく間もないほど、次から次へと、いろいろな生き物が登場します。水族館という専門的な場所なので、普段耳にしないような珍しい魚の名前も、どんどん出てきます。挿絵のイラストなどがないので、どんな魚なのか見当もつかず、私はタブレットを手元において、魚の名まえを検索し、画像を確認しながら読み進めていきました。名前だけより、姿が確認できると、内容もスムーズに理解できてお勧めです。

書籍情報

『愛しのオクトパス  海の賢者が誘う意識と生命の神秘の世界』
著者    サイ・モンゴメリー
訳者    小林 由香利
発行    2017年3月  亜紀書房