大人が楽しめる動物の本

動物大好きな大人の皆さまに贈る、私のお勧めの動物本です! フィクション・ノンフィクション取り混ぜて、ご紹介いたします。

「ドリトル先生航海記」

 

 私は小さい頃から生き物が大好きなのですが、たぶんその原点を形作ったともいえる本は、「シートン動物記」と、「ドリトル先生シリーズ」なのではないかと思っています。どちらも、たぶんよっぽど読書嫌いの子供でない限り、一度は読んだことがある有名で魅力的なシリーズ本ですね。ただし、「シートン動物記」のほうは、胸を締め付けられるような、あまりにも悲しい終わり方の話が多かった記憶があり、大人になってから読み返したいとは思えず、今に至ります。「ドリトル先生シリーズ」のほうですが、こちらは、打って変わってとても明るくて、ワクワクする楽しい本であった記憶があります。この度、「ドリトル先生航海記」を再度手にとってみて、何十年という時を超えて、子供の頃の感動に出会えるのか期待して、もう一度読んでみることにしました。

どんな本か

 小学生のころに読んだきりですので、私もすっかり話の内容は忘れていました。記憶にあるのは、動物と会話のできる獣医であるドリトル先生の話というイメージだけであり、どんな話だったろうとわくわくしながら読み進めていきました。

 靴職人の息子のスタビンズが、港町パドルビーで、ドリトル先生と出会い、一緒に船旅に出かけていく様子が、スタビンズの言葉で語られている物語です。バトルビーにあるドリトル先生の家や庭や動物園も、とても素敵で、私自身も、そこを訪れたスタビンズと同じ気持ちになって、引き寄せられていきます。

 船旅は、途中、いろいろな問題に見舞われ、食料不足や遭難にもあい、決して安泰したものではないのですが、悲惨さは微塵もなく、ドリトル先生の魅力と知恵で明るく乗り越えていきます。

お勧めのところ

学者らしい素朴なドリトル先生 

 ドリトル先生の、なんとも学者らしい素朴な魅力が、際立っています。世界的に有名な博物学者という立場なのですが、「人生に余計な荷物は不要だ」の言葉通り、金品にもまったく固執することなく、いつも自由であることを好み、貝の言葉を理解するという仕事に熱心であったりするのです。誰にでも何にでも真摯な態度で接し、未知なるものを探求し発見する喜びに人生をかけているという、正に学者の鏡のような先生なのです。かといって、世間知らずの我関せずというタイプではなく、料理も得意で自立した生活を送り、間違ったことは正していく正義感もあり、なんとも素敵な先生です。

動物と話ができること

 なんといっても、この話の最大の魅力は、ドリトル先生の「動物と話しができる」という、夢のような能力でしょう。動物好きの人なら、だれもが憧れる、動物の本当の気持ちを知りたいという思いに、みごとに答えてくれます。しかしドリトル先生も、すべての動物と始めからすんなり会話ができたわけではなく、一つ一つ習得してきたものなのです。未だうまく話せない種族の生き物もいます。物語の中で、「観察力を磨き、何にでもよく気付くようになるのが、動物の言葉を学ぶコツ」というくだりがあります。声を発する以外の部分、動物の仕草や些細な特徴からも気持ちを読み取り、会話しているのだというところが、この本を単なる子供向けの童話ではない、より深いものにしているような気がしました。

 動物と会話できるということは、動物の本当の気持ちがわかるというだけでなく、動物にこちらの意思も適格に伝えることができ、そのことでドリトル先生一行は、いろいろな危機に直面しても、動物の助けを借りて救われるという、ワクワクする嬉しい展開になっています。

 

 大人になって初めて、この物語を再読してみて、自分の子供の頃の思いや動物好きの原点を、正に思い出したような気分になりました。これは確かに、子供向けのフィクションなのですが、大人が読んでこそ、忘れていた大事なことにはっと気づかされることがあり、心がすっと軽くなるような感じがすることでしょう。子供の頃に読んだ記憶がある人こそ、ぜひ読み返していただけたらと思います。

書籍情報

『ドリトル先生の航海記 』
著者  ヒュー・ロフティング
訳者  井伏 鱒二
発行  岩波書店 2000年
初発行は1922年アメリカ。その後、各国で多数発行される。日本での初発行は1952年。